Title 「『優しい陽気に手を引かれ』」  
Name かじりまる
   
Website All right Buddy!!
 
All right Buddy!!
 麗らかな春の陽気に誘われて、木々を飛び交う小鳥達はいつにも増してにぎやかだ。
 小振りな嘴が囀るソプラノは眠たげな耳に心地良く、どれほど聴いていても飽きる事のない音楽を奏でているが、止まることない姦しさに関しては、小学校も高学年に差し掛かった少女達も負けていない。そして、それを取り巻く楽しげな猫達も。

 にぃ。にー。

 甘えた声を上げながら、鼻先を擦り付けてくる子猫に、くすぐったく身を捩りながらも、八神はやては笑顔を絶やさない。
「――――あはは! ほんと、すずかちゃんとこのにゃんこ達は、よく懐いてて可愛ええなぁ」
 もはや占拠されたとでも言う方がしっくり来る車椅子の上、数匹の猫達に甘えられている親友を見て、月村すずかもまた満面の笑みだ。
「誰でも、ってわけでもないよ。みんな分かってるんだよ、はやてちゃんの温かさを、ね」
「ゃぅ…………なんや、そないな風に言われると恥ずかしいなぁ」
 頬を赤らめながも、まんざらでも無さそうなはやての耳に、聞きなれた家族の――――若干泣き言じみた声が届く。
「――――二人とも……仲良しなのは良いんですけど…………そろそろ私の手に噛み付いてるこの子をどうにかして頂けませんか……?」
 そこにいたのは、困ったような笑顔に涙目をのぞかせる、湖の騎士だった。左手は、大き目の黒猫が楽しそうに甘噛みをしていたりする。
「あはは、猫が甘噛みしとるなんて、ある意味好かれてる証拠やで、シャマル」
「その子、気に入らない人には見向きもしないんですよ。シャマルさんの事が大好きなんですね」
「…………もうちょっと、普通な好かれ方ってないのかしら…………」
 ガックリと項垂れるシャマルを見て、二人の少女は一層笑いを深めるのだった。


 【魔法少女リリカルなのはSS『優しい陽気に手を引かれ』】


 月村宅は、近隣で稀に見るほどの豪邸であるが、その近くまで来た者は、一様に違う単語を思い浮かべる事請け合いである。
 すなわち、『猫屋敷』と。
 ブルジョワな猫の集会所になっているのかと思えば、さにあらず。街角のタバコ屋でおばばに抱かれてまどろんでいるのが似合いそうな雑種やら、およそその豪邸のグレードにそぐわない面々もままありながら、しかしその情景は、月村邸を背景にして溶け込んでいるのである。
 それには、月村家の次女たるすずかの力が大きかった。休みともなれば、街中の至る所から捨て猫を拾ってきては、献身的に育てるのである。気付けばどの子猫もすずかを親だと思い込み、数年もした頃には人を人とも思わぬ(?)猫軍団の形成となるのだ。
 慈母の如きすずかの手によって育てられた子猫たちは、そもそも人見知りの嫌いはあるものの、すずかが認め、連れて来た友人であればそうそう怯えることもない。人恋しげに、にゃぁにゃぁと身を擦り付けて来ては、いつの間にか客人全てに愛でられている寸法である。
 小学校三年生の頃、初めて月村邸を訪れたその時から、はやては猫達のお気に入りとなり、はやてもまたその猫達を殊更可愛がっていた。車椅子に腰掛けるはやての膝に、一跳びに乗ってくる者もいれば、小さい身体を一杯に伸ばしてよじ登ってくる者もいる。そのいずれもが、はやての心を温めて、暗い諦観に明るい希望を差し伸べてくれていたものだ。今でこそ、時空管理局特別捜査官として未来溢れる毎日を送っている彼女だったが、当時の精神状態を思えば、この柔らかな友人達が与えてくれた心のゆとりは、掛け替えの無いものだったと感じ入るものだ。

 にー。にゃぅー。

「あは、なんや、甘えんぼさんやなー」
 肩までよじ登って、母にするように擦り寄ってくる猫を、愛しげに撫でてやると、その様子を見ていた他の猫達もまた、我先にとはやての胸元に集まってくる。まだまだ小学生の身の上でありながら、その物腰はまるで母親そのものであるはやてだけに、猫達もまた、甘えぶりに拍車が掛かっているのだろう。
「ほんと、はやてちゃんお母さんみたいだね。ほら、その子達も、こんなに安心し切ってる」
「はやてちゃんのお母さんぶりは、ヴィータちゃんの様子を見ていても分かりますからね。私やシグナムの記憶の中でも、あの子があそこまで懐いたマスターは、はやてちゃん以外にいませんし」
「この身体から溢れ出てるんやね…………おばさん臭さが…………」
 わざとらしく縦線を背負ってみせるはやてだが、残念ながらここにいる二人には役者が足りていない。すずかもシャマルもニコニコと笑うだけで、期待通りに慌てふためいてはくれず、はやては口を尖らせながら微笑んだ。
「あかんなぁ……そこは過剰に心配したすずかちゃん達に、わたしが『うそぴょーん』とか言う所までで一ネタやんか。二人とも精進が足らへんよ。もっと、フェイトちゃんを見習わんと」
「そんなこと言って、フェイトちゃんみたいに慌てたりしたら、『ノリ過ぎやって』とか言いながら突っこむんでしょ?」
「あや、バレとる。かなわんな、すずかちゃんには」
 軽口を口ずさみ、二人は朗らかに笑い合う。もちろん、傍らで見ていたシャマルもまた、口元に手を当てて薄く笑いをこぼしていた。

 ――――と。

「…………あれ? すずかちゃん、あの子、こないだまでおったっけ?」
 はやてが気にしたのは、3人が談笑していたテーブルからやや離れた所で、遠巻きに様子を伺っていた一匹の子猫だった。白地の身体に淡い茶色の模様を飾ったその子猫は、オドオドと脚を踏み出そうとしては、引っ込めて後ずさりをする――――そんな行動を繰り返していた。
「…………ああ、あの子ね。うん、つい最近、臨海公園の林道で鳴いてたのを見つけたんだ。なかなか懐いてくれなくて…………」
 すずかの困り顔を見て、はやてはその子猫をつぶさに観察する。遠目で分かりにくくはあったが、良く見れば尻尾の辺りに不自然な模様が有った事に気づいた。
「…………いじめられたんかな?」
「うん、多分…………」
 頷くすずかの手首の辺りに、先程までは気付かなかった傷を確認して、はやては大よその事を悟った。きっと、あの子猫は人の子供にいじめられた経験を持つのだろう。すずかが手を差し伸べた時も、最初は弱々しく抵抗したに違いない。けれど、きっとすずかはめげずに手を差し伸べ続け、何とか自分の家まで連れて来る所まではこぎつけたのだろう。
「あまり、具合が良さそうじゃないですね……」
 シャマルの言葉に、すずかは不安そうに頷く。
「そうなんですけど……お医者さんに診せようとすると、この子沢山嫌がって…………」
 はやては、しばし黙考していたが、やがて一つ微笑むと、膝の上に座っていた何匹かの猫を優しく撫でて、降りるように促した。
「ごめんな、ちょっとだけ待っててな?」
 すずかとシャマルは、そんなはやての様子を訝しげに見ていたが、やがてはやてが、車椅子の手摺に手を掛けて、身を起こそうとするのを見て慌てて駆け寄った。
「はやてちゃん、まだリハビリ中なんだから、無理しちゃだめだよ!」
「そうです、せめて脚に魔力を通して下さい!」
 不安げに告げる二人に、はやては必死に力を込めて立ち上がろうとしながらも、優しく微笑んだ。
「ありがとな、二人とも。せやけど大丈夫や。無理やけど、無理やない。わたしは出来る範囲で、頑張るだけやから」
 後は、何も言えなかった。震える腕で一生懸命に身体を支えるはやてに、すずかとシャマルはともすれば伸ばしてしまいそうな腕を抑えて、ただ見守り続ける。

 わずかに、腰が浮いた。

 震える腕が、ようやく一直線に張り、いきおい、はやての身が車椅子から解き放たれる。

 もどかしい程に長い時間を掛けて、一歩を踏み出す。

 子猫は、初めこそ怯えたように逃げようとしたが、ふと、はやてと眼が合ってから、動けなくなっていた。

 もう、一歩。

 あまりにも、ゆっくりに過ぎる一歩。

 しかし、全身全霊をかけてはやては踏み出し、ようやく、子猫の前までたどり着いた。

 そして、糸が切れたように、その場にへたり込む。

『――――はやてちゃん!』
 声を上げて、駆け寄ろうとしたのは二人同時。しかし、はやては気安げに片手を挙げて、それを制した。
「ええよ、二人とも。問題あらへんから」
 言いながら、はやては目の前の――――いまだオドオドと身じろぎをしている子猫に、気安く手を差し伸べた。
「大丈夫やよ、なんも怖いことなんて無い。けど、ごめんな? わたしみたいなんに、怖い思いさせられたんよね? でもな、わたしも、すずかちゃんも、違うから。だから、な?」
 差し伸べた手を、子猫は振り払わなかった。
 指先を舐め、すり寄って、膝を舐める。まるで、頑張ったはやてを労わるかのように。
 はやては、いっそう微笑みを深くしながら、その場に寝転んだ。
「――――すずかちゃん、シャマル。わたしな、今とっても幸せなんよ」
「――――うん」
「――――はい」
 何気なくもらした言葉に、やはり何気なく二人は言葉を返しながら、はやての隣に座り込む。
「こうして横になってるのは、『横にしかなれないから』やない。自分の脚で立って、自分の脚で歩いて、そいで『お疲れ様』言うて休んでるんや。これって、本当に幸せな事なんやなー…………」
 二人はもう、何も言わない。けれど、その優しい笑顔が、何よりも雄弁に二人の想いを語って――――
「ああ…………お陽さまが気持ちええなー…………」

 to be ather story......

作者コメント

はやてが一番ゆっくり出来る場所は、実はすずかの所かな、と思います。
5人組は、きっとどの組み合わせでも仲良しなんだろうけれど……
なのはとフェイト、アリサとすずか、その組み合わせに負けないくらい、
『はやてとすずか』の組み合わせは大好きです。
未来の部隊ちょー、一生懸命頑張って、時にはゆっくりと休んでください(*^∇^*)
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[佐倉] すずかとは一番最初に会った仲ですしね!はやても愛されてるなぁ。こころのあたたまるSSとてもよかったです!

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