あの子達が来て、私が一人ぼっちでなくなった日からもう二十年・・・。あれが私の人生の転機だったといってもいい。確かに辛いこともあった。苦しいことも、悲しいことも。でも私には新しい友達が、家族が、そして仲間が沢山出来た。でも失ったものもあった。リィンフォース・・・彼女が私のもとを去ってからも二十年・・・。もう二十年も経つのだ。思えば遠くへ来た。この二十年で私は変わったんやろか。・・・変わることは出来た気がする。多くの仲間に支えられて、私は今日も歩き出す。自分の足で。この世界に平和を取り戻すために。今日も私は・・・。

 

 

 

              JMT(日本標準時)12月21日 時空管理局地上本部 陸士部隊隊舎 八神はやてのオフィス 「はやて」

 

 地球はもうじきクリスマスやろうか。これを過ぎれば今年ももう終わりやな。私も彼氏なんかと一緒に甘ぁい夜を・・・なんて、いまだに一人見の私の彼氏といえばもっぱら仕事やし、仮に彼氏がおったからって仕事を疎かにはできん。責任ちゅうもんがあるからな。

 そういえば、クリスマスがそろそろちゅう事は、あの子の命日も近いな。もう・・・二十回忌になるんか・・・。どうりで私もおばさんになるわけやなぁ・・・。

 私が物思いにふけっていると、短いチャイムが誰かの来訪を告げた。

 

「どうぞ〜。開いてますよ〜」

 

 私がそう声をかけると小さなドアが音を立てて開き、副官の子が書類を持って入ってきた。・・・ちっ、ボーイフレンド大量入荷かいな。せっかくのクリスマスやのになぁ・・・。ま、こっちの人間には関係無いイベントか。

 

「・・・・・またお仕事かいな、アマンダ?」

 

 誰が見てもやる気がなさそうに私が言うと、アマンダ・ローグウェル一等陸佐は手に持った書類を私の机の上に置き

 

「たまには文句言わずに仕事できないんですか?八神准将」

 

と言い返してきた。揉んだろうかこのアマぁ・・・。まぁええ。とにかく今は仕事せんとなぁ。めんどくさい、あぁめんどくさい・・・。

 

「面倒くさいなぁ。誰か手伝ってくれへんかなぁ・・・」

 

「どうぞお一人で」

 

なんや独り言のつもりやのに、こうまで言われると少し傷つくなぁ・・・。とにかく仕事仕事っと・・・。

 私の申し出を一蹴した後アマンダは部屋を出て行こうとしたが、思い出した様に立ち止まり

 

「そういえば三日前の爆破事件の報告書、端末に送っておきましたから。目を通しておいてくださいね」

 

と言い残して私の部屋を出ていった。・・・また仕事かいなぁぁぁぁぁ!

 少し取り乱してもうた。早いとこおわらせてまわんと・・・。

 端末を見ると彼女の言ったとおり調査報告書があがっていた。

 

「やっぱり死人はゼロか・・・。何が目的なんや?」

 

市街地での爆破事件で死人がゼロ・・・。犯行声明は無し・・・。いったい何が目的なんや。悪戯にしては規模がでか過ぎるし・・・。わからん・・・。まったくわからん・・・。こんな事件起こされると残業増えるから嫌なんやって。

 やるんならやるで犯行声明出せばいいものを、出さんもんやから犯罪履歴漁って調べるしかないしのぉ。

 

「あーあかん。駄目や。他のから片付けてしまお」

 

 下から次々と上がってくる書類を片付けながらも、この不可解な連続爆破事件に意識を持っていかずにはいられなかった。

 まず発生個所の規則性と、使用された爆薬の種類から犯人の規模と資金面に関しての予測。後は発生周期くらいかな、今分かるのは。それだけでも骨の折れる作業やな。とりあえずアマンダに頼んでおくか。

 私は内線のボタンを押すとアマンダに必要な資料を揃えるように頼んだ。まぁ三日もすれば上がってくるやろう。

 今度こそ他の仕事を片付けよう―――そう思い立ち、彼氏の群れを開拓し始めた。

 

 

 

              同日 ミッドチルダ 廃棄区画 「男」

 

 時空管理局の管理体制は間違ってる。そう思うようになったのは今から数年前だ。

 次元文明の管理者を名乗っておきながら、その実クラナガンの治安すら守りきれていない。そんな連中に別次元の管理なぞ任せておけない。そのためにも俺は仲間と共に立ちあがったのだ。管理局の「支配」から次元を開放するために。

 今はまだ様子見だ。管理局の連中がどれほどのものか確かめる。そのためにも死人は出さないなど犯行に統一性を持たせておく。その位の事に気づいてもらわないとクーデターまがいのことを起こす意味が無い。

 

「大佐、次のターゲットへの爆薬設置完了しました。爆破予定時刻に変更はありません」

 

 どうやら次の作戦を実行するときが来た様だ。そろそろ管理局の連中も目星をつけ始めるだろう。・・・そろそろ『アレ』を出すときか。

 

「おい、そろそろ『アレ』を使う。保管庫から取り出して車に乗せておけ」

 

「了解しました」

 

 敬礼をして部下が下がると、崩れかかった廃棄区画で一人となった。崩れかけた壁から見える空は綺麗な青だった。

 

(もう少しでこの空の下で何人もの人が命を失うことになるのか・・・・)

 

 自らが行おうとしていることが何故か客観的に見えて、しばらく空を見つめ無心になった。だが心は既に決まっている。そう言い聞かせて俺はゆっくり立ち上がると外にある車に向かって歩き出し、廃棄区画を後にした。

 窓を開け、車の中に風を入れる。覚悟はしていたがそれでもやはり緊張する。俺の計画で世の中が変わるかどうかは正直分からない。でもやらなきゃ変わらない。だから俺は決意したのだ。この世を変えようと。

 

 「『アレ』の起動キーをくれ。最後ぐらい自分でやりたい」

 

『アレ』を保管庫から出してきた部下から鍵を受け取ると、それをポケットの中に入れた。普段軽いはずのその金属片は、責任という重さでずしりと重かった。

 俺にこれを回せるだろうか。ふとそんな不安がよぎり思わず仲間たちの顔を見まわしてしまった。でも仲間の顔を見ると不安なんて物は吹き飛んだ。

 こいつらと一緒ならやれる。こいつらのためにも俺はこの鍵を回すんだ。

 エンジンがうなりをあげる中、決意を新たにした俺は冷めた興奮の変わりに襲ってきたまどろみに身をゆだねて束の間の眠りに落ちた。

 

 

 

              同日 時空管理局地上本部 倉庫 「・・・」

 

 それは誰の目にもとまらない、倉庫の奥深くに眠っていた。補給物資に偽装されたそれは局員の目を欺き、その牙を剥くときを待っていた。

 そのときがくれば否が応でも動き出す。そう運命付けられたから。今はまだそれ単体の運命。でも一度牙をむけば多くの運命を左右させることの出来る。多くの運命の濁流に身を任せる様に秒読みを続けた・・・。

中で眠る過去の遺物が、早く出せと唸りを上げている様だ。

 

―――――来た。そのときが。

 中で燻っていた力を・・・盛大に解き放つときが。

 

 

 

              同日 八神はやてのオフィス 「はやて」

 

 「ん・・・くっ・・・!はぁっ・・・と。やった片付いた」

 

仕上げた書類の山を見て、座った姿勢で固まったかのような体を伸ばしてほぐした。あぁ〜・・・コーヒーがうまいなぁ・・・。

 

「よし!帰ろ!もう帰ってやる。今日はもう仕事せぇへんぞ絶対働かんうちでゆっくりしてやる・・・・」

 

私がそうぶつくさ独り言を言いながらコーヒーをすすっていると、内線のディスプレイにアマンダが出た。こめかみに怒りマークがでんばかりの怒りを携えて笑っていた。・・・怖い。あはははは・・・。

 

〔まだ勤務時間は山ほど残っていますよ?准将〕

 

「わかっとるって。ちょっとしたジョークやないかぁ」

 

〔分かってるんなら内線繋げながらでかでかと独り言垂れ流すのは止めてください。先ほど仰っていた爆破事件の資料、揃っています〕

 

 速っ!あぁぁ・・・。手際が良くて嬉しいやら悲しいやら。とりあえずこっちに資料をすべてまわす様に頼んで、資料がくるのを待った。そして後悔した。なんやこの量!

 

「あ〜・・・。アマンダさん?嫌がらせしてるって訳やあらへんよね?これで全部ですか?」

 

 そうです、と何を言ってやがるんだこのボケ上司はといった顔でこちらを見ながら返してきた。・・・もう辞めたろうかなこの仕事。

 何はともあれこれで捜査を進められる。言わずもがな死人はゼロ。規模も今までと変わらん。決まって二日置き。つまり次の事件は今日になる。あくまで執務官連中の管轄やけどさすがに急がなまずいよなぁ。

 こんだけ共通点があるんや。何か決定的なものが・・・。

 

「この発生場所の分布図・・・。これは・・・」

 

 発生分布図を見て少しだけ考えた。・・・やっぱり。ある点を基準にして対角線上に発生現場がある・・・。ならこの現場同士を線で結べば・・・。ビンゴや。完全に一点で交わんでぇ!あっははあたし天才や。ん・・・?

 綺麗な六角形の対角線を描くその線は、まるで次こそが本命であることを表しているようやった。その点の真下に位置する場所。私の見覚えのある場所。

 

「・・・!あかん!アマンダ・・・!」

 

 言いかけて、私の声を遮る爆発音が鳴り響く。近い、遅かった!

 六角形の対角線が示す場所・・・。それは、ここ時空管理局地上本部やった。

 爆発の余韻が収まって、代わりに警報が鳴り響いた。やかましいなぁ!そない煩く言わんでもわかっとるっちゅーねん。

 

「アマンダぁ!被害の報告せぇ!」

 

 警報に負けないくらい大きい声でアマンダに指示を飛ばした。どうやら一階倉庫がぶっ飛んだらしい。くそっ、物資に紛れとったか!・・・済んだ事はしゃーない。今は被害の拡大防止と犯人確保に全力出すことや。

 私が次の指示を飛ばそうとした矢先、アマンダが叫んだ。

 

〔准将!テレビ見てください、テレビ!〕

 

 あぁ?このアマぁこんなときにテレビ見ろっちゃどんな神経しとるんじゃい。が、アマンダがすごい剣幕でまくし立てるんで渋々テレビをつけた。

 おかしい・・・。どのチャンネルも同じ場面しか映し出していない。なんやこれは。

 私の不信感は次の瞬間画面に男が出てきたことによって吹っ飛んだ。なるほどなぁ・・・。

 

「アマンダ、録画の準備は出来とるか?こりゃぁあれや。今までの分ひっくるめた犯行声明や」

 

 こいつ等ぁ・・・。首根っこひっ捕まえてやるからのぉ・・・!はっはっはっはっはぁ!

 

〔我々は時空解放戦線―DRA―。時空管理局の現体制から多次元文明を解放するために行動を起こした。我々の敵は時空管理局であり、そして救うべきものこそ時空であり、それぞれに住まう人民である。皆よ!共に立ち上がろう!我々に賛同するものは廃棄区画に集結せよ!共に、共に戦おう!

 あぁ、地上本部の諸君には素敵なプレゼントを用意しておいた。細菌型ロストロギア【Killmage-Virus】。魔導師のみに感染するウィルスで、潜伏期間は3日。発症すればすぐにリンカーコアが食われて死に至る。我々の望むものは管理局の解散。もし条件を呑むというならワクチンを人数分差し上げよう〕

 

・・・なんやて!?んなアホな話があるか!何人の魔導師がここで働いとる思うとるんや!まてよ・・・?つまり、私も感染しとるっちゅぅ事か・・・。どうする?どうすればいい?何が出来る?3日で奴等を挙げられるか?どうする?どうする・・・?

 私が絶望に負けそうになっていると、アマンダがやる気に満ちた声で私に力をくれた。

 

〔准将!いつもの破天荒はどうしたんですか!?なぜいつもみたいに無茶苦茶な指示を飛ばさないんですか!もしかしてウィルスにビビってるんじゃないですか?〕

 

「・・・、んなわけあるかい!今日中にでも連中捕らえてやるからのぉ!気張るぞアマンダ!」

 

 

 

発症まであと3日・・・。

 

 

 

              JMT12月22日 時空管理局地上本部 上層作戦管制室 「地上本部上層部」

 

 爆発が発生してすぐに犯人の特定と調査を進めようとするあたり地上本部の意欲には目を見張るものがある。しかし今まで計7件の爆破事件を管理局のお膝元で起こしているにもかかわらず、その身元を特定できない犯人を相手にしてはその意欲も空回りし、ますますもって上層部の苛々は募るばかりだった。

 

「キルメイジ・・・。我々にも感染しているのだろうな。医療スタッフの解析は終わっているのかね?」

 

 参加者の一人がそう聞くと、医療スタッフと思しき人物が書類を持って立ち上がった。

 

「はい。通告通り有効範囲内の魔道師すべてに感染するものです。リンカーコアを侵食するもので、魔力量の低いものはもう立つ事すらままならなくなるでしょう。ただし不幸中の幸いというべきか、このウィルスは人から人への感染は見られずどんな事をしてもこれ以上感染者が増えることはありません」

 

 そう言って座ると、作戦参謀官が変わりに立ち上がって今までの処置と今後の計画について報告した。

 

「現在、空気洗浄機によってウィルスの蔓延は食い止めていられますが、やはり大多数の人間に感染が見られます。しかし、犯人を押さえるためにも管理局の魔道師を総動員して捜査に当たらせなければまず犯人確保は無理です」

 

 この会議の司会の初老の男性が、それだけでは駄目だと目で訴えた。その気配を感じ取った作戦参謀官が付け足す様に

 

「・・・なおこの件の作戦に関しては八神はやて准将に一任するべきかと思います」

 

「八神・・・。ああ、あのチビたぬきか。あいつに任せて大丈夫なのか?」

 

 自分の地位を取られまいとする保守派の人間からの多少の反対はあったものの、この場に八神准将を呼び作戦指令を直々に通告するという形で落ち着いた。

 

「そうだ・・・。今回の件、関わっているロストロギアが特殊だ。彼の力を借りてはどうだ?」

 

 どうやらこの連中はもう一人用のある者がいるようだった。

 

 

 

              同日 八神はやてのオフィス 「はやて」

 

 とりあえず今後の行動をどうするべきかアマンダと話合っとった時に館内放送がなった。

 

〔局員呼び出し。八神はやて准将、八神はやて准将。至急上層作戦管制室へ出頭してください。繰り返します・・・〕

 

 なんやぁ急に。面倒くさいのぉ。じじぃのお小言受けるようなことはまだしとらんちゅぅねん・・・。

 ぶつくさ文句言っても仕方ないのでとっとと行く事にした。気が重い。

 

「ちょぉっと行ってくるわ。帰ってくるまでにどんな事してでもキルメイジとやらの情報集めとけ」

 

〔了解しました。行ってらっしゃいませ〕

 

 私が廊下に出ると、爆発の影響からか少し廊下が埃っぽかった。でも、空調が働いてたからそれもすぐに消えたけど。

 ・・・しっかし、細菌型ロストロギアとは厄介や・・・。対処のしようがさっぱり思い浮かばん。まぁこれからそんな感じのことでも言われるんやろ。

 しばらく歩くと目の前に上層作戦管制室の扉が現れた。

 

「出来れば入りたくないんやけど・・・」

 

 意を決して扉を開けると、おぉ、おるおる。お偉方が山ほどおるわ。こんなところにこんな小娘を呼び出すとは・・・。よっぽどの事なんやろうな。

 

「どうやらお急ぎの様なんで挨拶は抜きにさせていただきます。用件だけお聞きしましょか」

 

 そう言って急かすと、むっとしたような顔になったが、そんな時間すらも惜しいといった様に普通の顔に戻り話し始めた。

 

「来てもらったのは他でもない。八神准将、君にこの作戦の指揮を一任する。君なら出来るだろう?いや・・・やってもらわねばならん」

 

 そうきたか。一任・・・。素直に喜べへんなぁ。前線に出難くなるし。しょうがない、ここはちょっと無理を押し通してみるか・・・。通るかどうかは分からんが。

 

「そうですねぇ・・・。機動六課があれば出来ると思いますよ?」

 

 ―――――機動六課。正式には時空管理局、遺失物管理部対策部隊『機動六課』。10年前、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティとその一味が企てた、通称JS事件を解決することが出来たあの機動六課である。あのメンツなら出来るやろ、三日以内に。

 まさかこんな我侭はさすがに通らないだろうと踏んでいたが、返ってきた答えは意外なものだった。

 

「10年前貴様が指揮していた部隊か。貴様の挑発に乗る様で癪だが、必要なものは今日中に手配しておこう。」

 

 本気かこのじいさん。まさかこの我侭が通るとは。よし、これでこんな事件解決出来たも同然や。

 

「ただし、条件を一つ飲んでもらうことになるぞ。入ってきたまえ」

 

 何ぞごっつい風貌の男が入ってきた。とりあえずそんじょそこらの民間人てわけやない様やな。なんやこいつ・・・。懐にデバイスを隠し持っとるな。・・・ガンナーか。

 

「どちらさんですかですか?彼は」

 

「医療系ロストロギアの権威、ランドルフ・アシュバートン博士だ。今回医療アドバイザーとして任務に当たってもらう。もちろんお前の部下としてだ」

 

 なるほど・・・。今回みたいな事件にはうってつけの人材や。ようこんな男見つけてきたなぁ。保身のためなら全身全霊ってか?そのやる気をもうちっとばかし他のことに使ってくれたらええんやけどな。

 

「本日付で本作戦の作戦指揮を任命された八神はやて准将です。よろしく」

 

 私が握手を求めると、無愛想な見た目とは裏腹にすんなりと握手を返してきた・・・時に気づいた。こいつ、ほんとに学者か?

 手のひらにマメがある。剣術でつくようなマメが。しかも相当出来る。体格もいいし、どう見ても学者には見えん。ただの学者や無い様や・・・。

 

「ランドルフ・アシュバートンだ・・・。よろしく頼む」

 

よろしく・・・ね。何にせよこいつに賭けるしかなさそうや。

 とにかく必要なことはすべて確認してしまおう。

 

「作戦開始は恐らく明日から出来るでしょう。隊舎は10年前と同じでかまいませんね?」

 

そう聞くと、えっらそうに踏ん反り返っておった老人が無言で頷いた。・・・ふん、ええやろ。とっととこの任務片付けて近いうちにその椅子から引き摺り下ろしたるさかいのぉ。

 しかし機動六課が再結成となるとやることは多い。隊員の再結集自体は時間がかからんやろうが、いちいち向こうに連絡をつけるのに時間かかりそうや。アマンダと手分けしてやるか。

 ・・・うちの子達も呼ばなあかんな。せっかくあの子の命日も近いっちゅうのになんも準備できひんとはな。ますます早く仕事を終わらせる理由が出来た。

 

 「アシュバートン博士、正式な作戦開始は明日からになります。場所等は後程連絡いたしますので。では失礼いたします」

 

それだけ言い残すと上層作戦管制室を後にした。

・・・

・・・・・

・・・・・・・忙しくなるな。

 

 

 

              同日 ミッドチルダ首都 クラナガン ナカジマ家 「スバル・ナカジマ」

 

 今日は疲れちゃったな〜。仕事自体は早く終わったけど最近ちょっと弛んでんのかなぁ・・・。なのはさんの訓練に比べると任務は・・・それは人命が懸かってるから責任とかはあるけど純粋な肉体の動作で言ったらぜんぜん量が少ないし、訓練の時間も取れないしで・・・。

 もっかいなのはさんの訓練受けたいなぁ・・・。このままじゃ駄目な気がする。

 

「はぁ・・・、ティア・・・」

 

 そう言えば最近ティアにも会ってないなぁ・・・。家は家で賑やかだけど、でもやっぱり会ってないと寂しいよ・・・。

 そんなことを考えて自室で座り込んでいた私をよそに、通信が入った。誰だろ。こんな時間だしギン姉か、ナンバーズか、お父さんか・・・。

 

「はい。スバル・ナカジマです」

 

 回線を開くと美人な女性が映っていた。見たこと無い人だなぁ。港湾警備隊の人って訳でもなさそうだし、それ以前に会ったことのない人だし。どちらさまですかって聞こうとしたときに相手のほうから名乗った。

 

〔私は地上本部のアマンダ・ローグウェル一等陸佐です〕

 

 一等・・・陸佐?え?えぇええぇぇええ!何でそんな偉い人がいきなり通信を。

 戸惑いに戸惑いまくっていると、アマンダ一等陸佐が説明してくれた。度肝を抜かれるような説明を。分かりやすく。

 

〔えー、単刀直入にいいます。ある事件の捜査のために機動六課のメンバーを再召集します。人事部から明日には異動指令書がくるでしょう。明日の午後には全員集合できるかと〕

 

 ・・・最初、この人の言っていることが良くわかんなかった。どう言うこと?六課・・・再召・・・集?えええ!

 

「ほ・・・ホントですか!?」

 

 思わず興奮してしまった。実に10年ぶり。10年ぶりの『機動六課』である。みんなと、会える!

 ただ・・・、ある事件って・・・。まさか・・・。昨日の爆破事件かな・・・。大丈夫かな、色々と。

 

「事件て、もしかして昨日の?」

 

〔はい。詳しいことは明日説明しますが、身体的な安全についてご心配なされておられるのならご安心ください。その点に関しても明日詳しく説明いたします〕

 

 そう言っているんならきっとそうなんだろう。とりあえず信じてみることにした。とにかく被害が広がる前に食い止める!みんなとなら出来る!だから呼ばれたことに誇りを持ってお仕事しようと思う!

 

〔ではまた明日に・・・起こしてしまいましたか八神准将?今ナカジマ二尉と通信中ですが、なにかございますか?〕

 

 八神・・・准将?あの人また昇格したんだ・・・。ってことはまた八神准将が部隊長なんだろうな。ホントに10年前みたい。

 

〔よう、スバル。ひっさしぶりやのぉ。元気か?〕

 

 やっぱり変わってないな、この人。むしろなんか・・・強くなった感じ。あはは、またこの人の元で働けるんだ。とりあえず・・・セクハラには注意しとこ。

 

「はい、とっても。八神・・・准将もお変わりない様ですね?」

 

〔あったりまえや。・・・、一言だけいっとくぞ。明日から頼む〕

 

 当たり前じゃないですか。やりぬいて見せますよ。任せてください・・・。いろんな言葉がぐるぐる心の中を回ったけど、出た言葉は一つだけだった。

 

「はい!」

 

それだけで八神准将にはそれで伝わったみたいだった。

 

 

 

発症まであと2日・・・。

 

 

 

              JMT12月23日 ミッドチルダ 機動六課隊舎 「はやて」

 

 ハァ・・・。なんや物凄くとんでもない事に巻き込まれた気がするわぁ。なんやっちゅうねんDRAだかなんだか知らんがむやみやたらとロストロギア振り回しおって。ま、今愚痴ってもしょうがない。今はとりあえず10年ぶりの同窓会と洒落込もうか。

 目の前の扉を開けると、既に懐かしい顔が揃っとった。おるわおるわ、みんなおるわ。

 自然と顔がにやけてしまった。懐かしい顔触ればっかりや。フォワードメンバーも大きくなって・・・。どおりで歳をとるわけや。

 

「遅いですよ八神准将?さっ、早くこちらに、部隊長殿」

 

「おぉなのはちゃん、わざわざ来てもらってごめんなぁ。他の皆も良く来てくれた」

 

 私が話し始めたとたん、空気が変わったように感じた。公私の区別が付けられるっちゅうんはいい事や。私はあんまりできんが。

 

「皆も知ってるかもしれんが、2日前地上本部が爆破された。その際に使用された細菌型・・・、正確にはナノマシン製ロストロギア【Killmage-Virus】が蔓延した。この中にも感染しとる者がおるやろう。私もそうや。・・・まぁ人から人に感染することぁ無いらしいから感染しとらんものも安心せぇ」

 

キルメイジの名前が出た途端に少しざわめいたが、それでも説明を入れればすぐに収まった。

 ・・・く。少し視界が揺らいだ。まだあと1日はあるっちゅうのに。まいったな・・・。見るからに辛そうな奴もおるし。アマンダはまだ大丈夫みたいやけどそれにしたって危険であることには代わり無い。

 

「八神准将?どうかされましたか?」

 

 少し黙りこくっていた私の様子をおかしいと感じたんか、アマンダが堪らずそう聞いてきた。

 

「・・・いや、大丈夫や。よし、ちょうどいい。今回作戦を行うに当たって、今回機動六課に参加するメンバーを紹介しよう。むしろ自己紹介せぇ」

 

そう言うと一歩下がった。その様子を見て、アマンダが一歩前に出て自己紹介をはじめた。物分りのええ子で助かった。正直今はこれ以上喋るのもしんどい。くそ、潜伏期間中くらい大人しくしとれ・・・!

 

「アマンダ・ローグウェル一等陸佐です。何名かは事情説明の通信のときにお会いしたと思います。八神准将の補佐として勤務させて頂いてましたし、今回の任務での位置付けもそんな所になります。短い間だとは思いますがよろしくお願いします」

 

 ・・・少し収まった。今でこんなならこれから先もっと酷くなるかもしれん。ま、気の持ち様か。何とかなるやろ。

 

 「医療アドバイザーとして参加することになったランドルフ・アシュバートンです。今回使用されたキルメイジは私の専門なので上層部から呼ばれてここにいます。よろしく」

 

二人とも終わったか。とにかくお開きにしよう。なんだかんだ言っても結構しんどいし、個人的にフォワード陣にも話があるし。

 

「よし。大体やりたいことは終わった。後は解散してしばらくの間再会でも楽しんでくれ。ライトニングとスターズはちょっと会議室まで来てくれ、アマンダもや」

 

「「はい!」」

 

いい返事や。それじゃあ行こうかと声をかけて歩き出す。一歩目がふらついた気がしたが、二歩目からは大丈夫やったからそのまま歩いていった。

 ・・・もう大丈夫、普段どおりや。

 

 

 

              同日 機動六課隊舎 会議室

 

 「あー・・・、集まってもらったんは他でもない。今後のシフトに関してや」

 

皆が集まったのを確認してミーティングを始めた。ミーティングといってもあくまで一方的な説明やけど。

 

「恐らく期限の明日には何らかのコンタクトを取ってくるやろう。でもそれまでになにかアクションを起こすやもしれん。そんなわけで皆には基本的に常にシフトに入ってもらいたい。ええか?」

 

「いやだって言ってもそうさせんだろ、はやて?」

 

ヴィータが真っ先に口を開いた。さすが家の子や、よぉわかっとる。他の皆も納得した様に頷いた。

 

「まぁそうなるな。あ、あと私も前線出るから」

 

最初からそのつもりやったからそう言っただけなんだが、皆は心底驚いとる様子やった。

 

「ちょっとはやてちゃん。私が言うのもなんだけど、無理しちゃ駄目だよ」

 

なのはちゃんがそう声をかけてくれた。確かになのはちゃんには言われたくない。でも一理はある。無理はできん。でも、でもなぁ・・・

 

「こんかいは、そうも言えへん。多くの命が掛かっとるからね。もちろん皆のことは信じとるし、頼りにしとるんよ。でも、多くの命みんな背負って私はここにおんねん。だから前に出て戦いたい。この体が動く限り」

 

そう言うと、なのはちゃんはそれ以上はなにも言わなかったどうやら分かってくれた様や。みんなも、分かってくれたみたい。

 そうや・・・。今回ばかりは後衛でじっとはしておれん。あの子の命日に自分まで死んでまうなんて洒落にもならん。

 

「しっかし、なのはちゃんにそう言われるとは思わへんかった」

 

「あぁ。まさかなのは隊長の口からそんな台詞が聞けるなんてな」

 

シグナムも続けて同意した。皆も声には出さないものの、同意見らしかった。こん中で一番無茶するんがなのはちゃんやしな。

 

「まぁそんなわけで、今作戦のシフトは以下のようになります。みんな、頼んだで!質問等が無ければこのまま解散してな」

 

「「はい!」」

 

みんなが会議室を出ていった後も、暫く私は会議室で座っていた。みんなには無理させてまうな・・・。でも、なんとしてでもワクチンを手に入れな、管理局地上本部の職員の半分以上が死に至る。そんなことだけは絶対に避けねばならん。

 

「はやてちゃ〜ん、まだここにいたんですか?頼まれた書類持ってきましたよ」

 

 真っ暗な中に壁のモニターの光があるだけの部屋に、書類を抱えたリィンが入ってきた。この子は爆発事件の時にメンテに出しておったから感染は免れた。運が良かった。だがその書類はいらん。

 

「おぉ、すまんなリィン。それあたしやのぉてアマンダのところにやってきてくれんか?」

 

と、ちらりとリィンのほうを向いてから目を合わせずに言うと、わかりましたとだけ言って会議室から出て行こうとしたが、敷居のところで立ち止まった。

 

「ん?どうしたんや、リィン?」

 

そのままの位置で振り向いて私に

 

「はやてちゃん、やっぱり・・・体辛いですか?シャマルも心配してたです。はやてちゃん無理してるって」

と聞いてきた。シャマルの予想どおりかなり無理していたが、悟られまいと虚勢を張った。

 

「なに、大丈夫や。それより書類頼んだで」

 

 リィンは暫く無言でいたが、やがてもう一度わかりましたと言うと、今度こそ会議室から出ていった。みんなやっぱりわかってしまうんやな。家族・・・やからなんやろか。顔を見ただけで何考えとんのか大体わかる。

 これ以上みんなに心配かけへんようにさっさと解決せななぁ。気づいたころには倦怠感も取れ、体を動かす事が苦でなくなった。

 私は立ちあがると、モニターを消して会議室を後にした。

 

 

 

              同日 機動六課隊舎 通路 「なのは」

 

 はやてちゃん・・・、絶対無理してる。でも、はやてちゃんの言いたいこともわかる。だからあれ以上は何も言わなかった。いざとなれば無理やりにでも後ろに下がらせて大人しくさせていよう。その分ちゃんと私が戦おう。別にはやてちゃんだけが背負う責任じゃない。仲間達みんなで背負っていけばいい。

 廊下を歩いてると、フォワードメンバーがお茶を飲んでいるのが目にとまった。せっかくだから少し話でもしよう。そう思って近づいていくと、みんな立ちあがってしまった。

 

「ごめんごめん、座ったままでいいよ。別に用があって来たわけじゃないし。ただみんなとお茶したかっただけ。ここいいかな?」

 

スバルとエリオの間のスペースを指すと、キャロが私の分の椅子を用意してくれた。そこに座ってみんなの顔を見まわすと、やっぱり10年前とは違った顔つきに驚かされた。みんな良い顔してる。この分だと今回の事件私達抜きでも解決できるくらい。

 

「みんな、久しぶりに会ったけど調子よさそうだね。10年間で心も体も成長したみたいだ」

 

 そう言うと、みんな嬉しそうに微笑んだ。特にスバルなんか

 

「そんなことないですよ。まだまだひよっこです」

 

と満面の笑みで言ってる。その台詞はそんな顔で言う台詞じゃないよ、スバル。と心の中で突っ込んでおきながら、本当に言いたいことを頭の中でまとめた。

 

「それよりも、八神部隊長のことなんだけど・・・」

 

 私が少しまじめに話を切り出し始めると、それまでほころんでいたいた顔もきっと引き締まった。いわゆるお仕事の顔になった感じ。本当に成長したなって思う。

 

「本人はああ言ってるけど、それでも無理はしてるはず。本人の意思を無視するつもりは無いけど、それでもみんなで守ってあげて。それだけ、おねがいね」

 

そう言うと私は立ちあがって一回りみんなの顔を見まわした後、その目に宿る決意を見て満足してオフィスに帰ろうとした。

 

「なのはさん」

 

一歩踏み出そうとしたとき、スバルに声をかけられた。振り返ると、みんな立ってこっちを向いていた。スバルの言いたい事は大体わかる。だからこそその言葉を待った。

 

「なのはさん、私達がなのはさんからから学んだ力は、誰かを守るためのものだと思って今まで使ってきました。だから・・・任せてください!」

 

 その言葉を合図に、みんなが敬礼をしてきたので私も返した。本当に言い顔付きになった。次の時代の空を任せられるくらいに。

 教え子が成長していくのを見るのはやっぱり嬉しい。きっと本人達も成長を実感できれば嬉しいはずだし、それを見ているこっちだってとっても嬉しい。時には本人が自分の成長振りに気づいてなくて少しあせっちゃったりもするけど、この子達は本当に成長した。誰が見てもわかるくらいには。

 

「うん。ありがとう。それじゃ」

 

 答礼をといたあとは、自分のオフィスに向かう通路を歩いていった。途中でヴィータちゃんと会って、向きが一緒だからと一緒に歩いた。ヴィータちゃんたちヴォルケンリッターのみんなが働き始めた最初のころはヴィータちゃんもいやがってたけど、今では諦めたのか一緒に並んで歩いてくれる。

 

「なのは、やっぱりはやて無理してるよな・・・」

 

「うん・・・」

 

 ヴィータちゃんもわかってた。ホントにはやてちゃんは根が正直だから嘘もすぐにわかっちゃうんだよね。ヴィータちゃんほどじゃないけど私もはやてちゃんとの付き合い長いからすぐわかる。だから守ってあげたかった。

 

「あたし等が守って・・・」

 

「私達が守らなきゃね、ヴィータちゃん」

 

 だからヴィータちゃんが言う前に先に言った。守ろうって。そんなのわかりきった事なんだから、というような顔を向けると、ヴィータちゃんもそれを見て言うことは言いきったという顔になってくれた。

 

「それよりさ、そろそろそのヴィータちゃんっての止めろよ。変身魔法で少しは見た目年齢上げてんだからよ」

 

「えー?でももう慣れちゃったしなー♪」

 

 そんなやりとりはオフィスにつくまで続いた。

 

 

 

発症まであと1日・・・。

 

 

 

              JMT12月24日 機動六課隊舎 「はやて」

 

 今日や。何かアクションがあるとすれば、感染者の命が潰える今日や。まだ症状こそ出ていないが、それでも体は悲鳴を上げていた。みんな私と同じような状況に陥っているに違いない。何人か倒れたという報告もある。

 

「はぁっ・・・!はぁっ・・・!ぐっ!くそ・・・!」

 

 私も、拒絶反応に悩まされていた。発熱が酷い。吐き気もする。しかし、ここでぶっ倒れたらあいつ等を検挙できん。

 ・・・自分でもなぜこの事件にここまで力を入れるのかわからなかった。でも何かがそうさせるのだ。・・・ただここまでやられて黙って見ておれんだけかもしれんが。

 そんなときに、突如内線が入った。まさか・・・来たか。

 

〔准将、DARのリーダーを名乗る男から通信です。作戦指揮官を出せと〕

 

やっぱり来よったか。こうなったらもう腹括るしかない。辛い体に鞭打って一言、

 

「まわせ」

 

とだけ言った。

 暫くすると、3日前にテレビで見た顔がディスプレイに映し出された。忘れるはずない、この顔や。

 

「・・・今作戦の指揮を任されている八神はやて准将や。一応聞いといてやろう。あんたは?」

 

名前なんぞ興味なかったが、それでも会話で不都合が生じると思い聞いてみた。

 

「カーネル・・・とでも呼んでいただこう。要求を聞いて頂けるということで良いのかね?准将」

 

・・・カーネル(大佐)か。舐めおって。良いわけなかろう。でも聞かなければ話が進まん。

 

「一応聞こう。はよう言え」

 

「ふっ・・・。症状が出始めて焦っている様だな?良いだろう、要求は3日前に言ったとおり。のめばワクチンを渡すが、拒めば残りのキルメイジをすべてクラナガンに放出する」

 

そういったカーネルの言葉に聞き捨てならない部分があった。残りのキルメイジ?そんなことは3日前には一言も聞いとらん。もしクラナガン全域にキルメイジが放出されるようなことがあれば、地上本部の比ではない被害者が出る。新暦史上最悪の事件になるかもしれん。

 

「待て、キルメイジを放出するとは聞いとらん」

 

「そうだったかな?まあいい。タイマーの起動スイッチは私の手元にある。押せば一時間ですべてのキルメイジが解き放たれる」

 

この男、大事なことをまあいいで済ませよった・・・!こんな奴が管理局の支配から時空を開放する?ふざけるな。人の命を軽く見取る奴にそんな事が出来てたまるか。

 

「この部隊が担当やとどこで知った?」

 

情報提供者からさ」

 

情報提供者・・・考えられる人間は管理局の中にはごまんとおる。JS事件の例もあるし、探し始めると切りが無い。そやから目先の危機を摘み取る事にした。

 

「・・・まっとれよ。必ずとっ捕まえてやる」

 

 カーネルはふっ・・・と鼻で笑うと通信を切った。見とれよ、私にケンカ売ったこと後悔させたる・・・!くそ・・・!それまで持てよ、私の体よぉ・・・!

 

「全隊員に通告!作戦開始や、準備せぇ!・・・うっ!げほ!げほぉ!」

 

自分でもわかるくらい威勢のいい声で号令をかけたは良かったが、回線を切ったあとに盛大に咳が出た。やっぱり少ししんどいなぁ。早いとこ決めてしまわんと。立ちあがると、シュベルトクロイツを手にオフィスを後にした。

 

 

 

              同日 機動六課隊舎 ミーティングルーム 「はやて」

 「えー、フォワード陣の皆、先ほどの通信の逆探知によってDARのアジトが判明した。今から突入作戦の概要を説明する」

 

モニターに衛星写真と建物の見取り図が表示され、説明の状況は整った。後は・・・アマンダに任せよう!

 

「んじゃ、後アマンダ頼んだ」

 

「え、ちょ!今のは准将がそのまま説明を・・・はぁ・・・」

 

 私はアマンダに投げっぱなしにして椅子に腰掛けると、頑として動かない風を見せた。それを見たアマンダは、あきらめたように説明を始めた。

 

「えー、突入は三班にわかれて行います。アジト少し前でヘリボーンし、その後三班に別れて突入してください。スターズは右、ライトニングは裏、もう一斑は私と八神准将、リィンフォースツヴァイ二等空尉、後はアシュバートン博士です。本作戦ではライズバレット分隊と呼称します。我々は屋上から侵入して、一直線にリーダーの部屋を目指します。アジトの位置関係から見てもここにもキルメイジがあることは明白です。なお、市街地にしかけられた・・・」

 

 ・・・廃棄区画という言葉にだまされておった。まさかアジトがクラナガンのど真ん中にあるとは思いもよらんかった。確かにクラナガンにキルメイジを撒くにはこんなに良い立地条件は無い。この事件、もう少し早く気づければっていうことが多すぎや。反省やな。

 

「・・・。・・・将。准将!」

 

 アマンダに呼ばれてぶっ飛んだ意識を取り戻し、どうやらミーティングが終わったらしいことを確認した。ふぅ・・・。お仕事の時間やな。

 

「よし、行くか!用意しよか」

 

 そう声をかけると、皆良い返事をしてヘリの駐機場へ向かっていった。

 

 

 

              同日 機動六課隊舎 ヘリ駐機場 「はやて」

 

 皆より一足遅く駐機場に着くと、既に皆バリアジャケットを装備しており、後は私の到着を待って発進するのみとなっていた。一歩踏み出すごとに体に錘がのしかかるような感覚に、歩みを遅めずにはおられんかった。でも確実に一歩ずつ踏みしめていった。

 駐機場には二機のヘリが駐機しており、そのパイロットと共に発進の時を待っていた。

 

「あ、遅いっすよ准将。これ以上遅かったら置いていくところでしたよ」

 

ヴァイスか。今回はバックアップスナイパーとしても参加してもらうことになってるはずや。頼もしい、憎まれ口すらも頼もしく感じる。今回ばっかりは、な。

 

 「あぁ、すまんなぁ。じゃあスターズとライトニングはアルト機、三班はヴァイス機で行こう」

 

乗機の組み合わせを言うと、アマンダに良く理解できないと言いたげな顔をされた。どうやら他の皆も同じようだ。

 

 「まってください八神准将。もうちょっとまんべんなく乗っても良いんじゃ?」

 

フェイトちゃんが聞いてきた。確かにそうや。でも流石にみんなの前で出来ることやない事を私はしようとしとる。せやから納得してもらうことにした。

 

「ちょっと・・・、彼と大事なお話や」

 

と、少し距離をとって待機していたランドルフを指して少し小声で言った。気になることは山ほどあるからな。それでフェイトちゃんは納得してくれたみたいだった。・・・ほんっっっっとうにええ友達を持った、うん。

 

 「よし、待たせてすまんかったな。行こう」

 

みんなでヘリに乗り込む。ローターの回転数が上がるのが音でわかる。そのうちふわっと浮いた感覚がして、程なく窓の外は一面空になり隊舎ははるか眼下に小さく見えるだけになった。

 さて・・・、ここは上空数百メートルの空の密室。外と殆ど隔絶された空間。聞くことはホントに山程や。

 

「ランドルフ博士、少しよろしいですか?」

 

「・・・なんですか?」

 

懐からデバイスを出して動作の確認をする彼を見て気づいた。こいつ、ガンナーやとは思とったけどこれデバイスやない。実弾・・・セミオートマティックピストルか。

 

「色々と聞きたいけど、それあきらかに実弾やね?」

 

 ジャキン・・・と音を立てて太いグリップにマガジンを押し込んでから「そうですよ」とだけ答えた。ますますこいつが学者かどうか疑わしくなってきてしもた。なぜ実弾銃を平気な顔して持ち歩いとる?いったい何物やこいつ。

 気づけばもう少しで降下地点に到着する様だった。

 

「もう一つ。何でこの作戦に参加しようと思ったんですか?」

 

 そうや。いくら新しいロストロギアが見られるからといって、こんな危険な作戦に参加する義務は無い。なぜわざわざ危険地帯に足を踏み入れたのか。私やったら絶対断っていた。科学者の性やろか。それにしたっていくらなんでも割に合わん。

 

「・・・」

 

無言。無言か。よっぽど言いにくい事情かなんかか。こればっかりは少し詳しく聞いておきたい。単なる好奇心か・・・大いなる疑心なのか・・・。自分でもわからんが、な。

 

「どう・・・」

 

「そろそろ降下地点です!降下準備お願いします」!

 

 もうか・・・。聞いときたかったが仕方あるまい。立ちあがるとハッチの側により、シュベルトクロイツを掲げた。バリアジャケットを換装すると、リィンと共に降下準備を完了する。

 

 「いくよ、ベクトルマージ」

 

「Yes,Ma'am」

 

アマンダも自分のデバイスを起動させバリアジャケットを換装した。

 彼女のデバイス「ベクトルマージ」は、超長距離戦に特化したロングバレルライフルと、近距離を補うアラウンドビットによって構成されるインテリジェントデバイスや。彼女の細腕には似合わんでかさなんやけど、バイポッド下部のアンチウェイトブースターで自重を保持しとるらしい。

 

「あいっかわらずデカイなそれ」

 

シュベルトクロイツを担ぎながら彼女を見ると、確かにデカイ。彼女の身長ぐらいはあるやろか。不釣合いなそのデバイスは、それでも私の背中を任せられるに値するものだった。マスターと共にな。

 

「そうですね、なんでこの大きさにしたのか未だにわかりません」

 

「降下地点直上です!ハッチオープン、順次降下してください!」

 

 機内に、ヴァイスの声が響き、程なくハッチが開いて叩き付けるような風が吹き込んだ。ローターのダウンウォッシュとあいまって滅茶苦茶強い

 

「おいヴァイス!この風なんとかせぇ」

 

「無理っすよ!んなこと!」

 

・・・まぁそりゃそうや。冗談もそこそこに降下ポジションにつくと、一気に大空に身を躍らせた。暫く自由落下を続けていた。そろそろヤバイというところで大きな翼を広げよう。

 

「スレイプニィル!」

 

叫ぶと、翼が開いて私の体がふわっと宙に浮いた。そのままゆっくり降下を続け、地面に降り立つ。他のみんなも既に降りて待機していた。

後からアマンダも降りてきて後はランドルフ博士を待つのみになった。

 

〔おい、ヴァイス、ランドルフ博士は降りたか?〕

 

〔今から降りるそうです。・・・ランドルフ博士!ワイヤー垂らしましょうか?〕

 

〔いや、結構だ。このまま行く〕

 

 何・・・?まさか生身でこの高さから行くつもりか!?いくらなんでもそれは無理がある。

 

〔おい!ヴァイス止めろ!その高さやったら危険や!〕

 

〔駄目です!もう出ました!〕

 

くそ!なんて無茶する奴や!

 

ブワッ!ズシャァァァァァァァァ・・・・

 

「おわ!」

 

 すごい土煙をあげてランドルフ博士が落ちた。地面が少し陥没しとる。なんなんやこいつ、見たところ無傷みたいやし。化け物か・・・!

 

「大丈夫ですか!?ランドルフ博士!」

 

 暫く動かなかったんでなのはちゃんが心配して聞いたが、その直後顔を上げて普通に立ちあがった。マジで無傷や。何事も無かった様に立っとる。

 

「どうやら大丈夫見たいやで?なのはちゃん」

 

 なのはちゃんもそれを確認すると、みんなを集めて突入の合図を待った。そろそろDARの連中も気づいとるやろ。さっさと行かんと狙い撃ちにされかねん。

 

「よし!状況開始、ミーティングどおり三班に別れてそれぞれ突入。生かして捕らえるを徹底すれば後は何してもかまわん!」

 

 スターズとライトニングはすぐに散開し、それぞれのポイントに向かって飛んでいった。我々も早く動くか。

 

「よし、我々は低空で接近、アジト付近で急上昇、屋上から突入する。ランドルフ博士はどうするかな・・・」

 

 そうや、彼をどうやって屋上に上げるかそれを考えとらんかった。そう思って彼の意見を聞こうと彼の姿を探すが・・・、いない。見つからない!どこ行きよった。

 

「おい、アマンダ!あいつはどこ行った!」

 

「あいつって・・・、ランドルフ博士ですか?そういえばどこに行ったんでしょう」

 

 くっそ・・・!この一刻を争うときに・・・!

 

「しょうがない!このまま行くぞ!」

 

 そう言って地面すれすれの低空飛行を開始した。

 

 

 

              同日 DAR本拠地 第一階層 「ヴィータ」

 

 今日中にこいつ等を片づけねぇとはやてが・・・!

 

「どけぇぇぇぇぇ!」

 

 一心不乱にアイゼンを振り回す。連中も魔道師だからある程度ガードはしてくれるから楽だ。生身だったら当てることも躊躇っちまうけど。

 あらかた片付けると他の連中が追いついてきた。気が付くとどんどん前に出てきてしまっていたみてーだ。

 

「もうヴィータちゃん、はやてちゃんが心配なのはわかるけど、あんまり先走っちゃ駄目だよ!」

 

「あぁ・・・ごめん・・・隊長。アイゼン」

 

「Ja」

 

 持ってきたカートリッジは5発、使ったのが2発。もう全部入れとくか・・・。あんまりゆっくりもしてられねーけど。

 

「でもあんまりゆっくりもしてられねぇ。あと数時間後には感染者みんなが死んじまう」

 

「うん・・・。でもあまり無理してヴィータちゃんに何かあったら元も子もないよ?」

 

 そりゃそうだ。でもあたしは死ぬ気は無かった。まだまだ死ねないしな。

 

「なのはさん!新手です!」

 

 スバルが叫んだ。振り向くとまた数人増援がこちらに向かっている。まだ来んのかよ・・・。いいかげんにしろよ・・・!

 

「行くっきゃねーよな。行くぞ・・・!」

 

 突っ込んでくる敵に向かって、あたしはアイゼンを振りかぶった。

 

 

 

              同日 DAR本拠地 第三階層 「シグナム」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

何人目かのテロリストを倒した。正確に何人かは覚えていなかったが、床に倒れているのが複数だから山ほど倒したのだろう。体力も魔力もカートリッジも消耗が激しい。焦っているのか・・・?こんなに焦るのは20年前の蒐集のとき以来かもしれない。

 

「フェイト隊長、この近辺に敵はいません。」

 

「うん、先に進もう。エリオ、キャロ行こう」

 

「「はい」」

 

 三人はぜんぜん消耗していない様に見えた。当然といえば当然か。私が前に出過ぎていたのだ。落ち着け・・・落ち着け・・・。大丈夫だ、主は強い方だ。きっと大丈夫・・・!

 

 「・・・新手か」

 

目の前から新しくテロリストが来た。次から次へと・・・。

 

「隊長、この人数何分で片付けられる?」

 

「はやてが心配?」

 

 テスタロッサには読まれていた。態度に出ていたかもしれないな。

 

「うーん、エリオもキャロもシグナムもいるから・・・2分ぐらいかな?」

 

2分か・・・今は1分も惜しい。私はレヴァンティンを強く握り締め、テロリスト達に向き直った。

 

 「・・・レヴァンティン!カートリッジロード!」

 

 

 

 

              同日 DAR本拠地 最上階層 「はやて」

 

 く・・・そ・・・目が、霞んできた・・・。アマンダもしんどそうや。もう少し・・・もう少しのはずなんや。

 

「じゅ・・・准将。はぁ・・・はぁ・・・も、もうすこし・・・ですよ・・・ね・・・?」

 

あのアマンダが弱気になっとる。これは真剣にヤバイ。

 

 「アマンダ、お前・・・ここで休んどけ・・・。後は一人で・・・行く」

 

それが最善やと思った。ここに私がおるのも、ほとんど私のわがままや。ここまで付いて来てくれただけでありがたい。

 だがアマンダもリィンもそれには納得できない様子だった。

 

「駄目ですよはやてちゃん!そんなの危険です!」

 

リィンが反論してくる。危険なのはわかっとる。だからこそここから先にアマンダは連れて行きたくない。

 フラフラになりながらもアマンダが聞いてきた。

 

「わ・・・私は、足手・・・まと・・・いです・・・か?」

 

「アホぅ。んな訳あるかい。お前みたいに優秀な副官はリィン除いて他におるか」

 

本当に心の底からそう思っていた。こんなにまじめで優秀な副官はいない。うちのリィン以外は。

 

 「・・・わかりました。私は・・・ここに・・・残り・・・ます」

 

そういうや否や、ガクリと膝の力が抜けて倒れこんだ。やっぱり無理しとったんか。こりゃあ一人にしたら危ないなぁ・・・。

 

「リィン、お前もここに残れ。残ってアマンダの事見とってやれ」

 

「でもはやてちゃんは・・・!」

 

リィンがそう言い返していることは予想していた。この子は優しいからな・・・。

 

「大丈夫や、任せとけ」

 

そう言ってリィンが返事を返す前に歩き始める。後は私の仕事や。

 

 

 

              同日 DAR本拠地 作戦司令室 「はやて」

 

 たぶん・・・ここや。ここが最上階層の一番奥やし。

 デカイ扉が目の前にある。多分・・・最後の扉や。開ければ中にカーネルがおるやろう。あいつをのしてワクチンを手に入れる。

 

〔こちらライズバレットワン。敵首謀者がいると思われる扉の前にいる。今から・・・突入する〕

 

〔こちらスターズワン、了解。気をつけてね・・・〕

 

 さすがなのはちゃんや。滅茶苦茶気合入ったわ。ぐ・・・・!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

な・・・!なんやこれ・・・!ヤバイ・・・!体が、熱い・・・!ぐぅぅ!

 視界が百八十度ひっくり返ったような、そんな感覚に襲われて思わずそこに座り込んでしまった。発作・・・とでも言えば良いのだろうか。なにか大きな物が体を押さえつけているような感覚にとらわれる。座り込まずにはおられん。

 シュベルトクロイツを支えになんとか立ちあがると、扉の取っ手に手をかけた。

 

「く・・・!重い・・・!」

 

 ぎぃぃぃぃぃぃ・・・と重たい音を立てて扉が開く。目が霞んできよった。

 霞む視界の中で人影が見える。あれは・・・カーネルと・・・・もう一人・・・誰や・・・?くそ・・・!ちょうどカーネルの影になって見えん・・・!

 重い足取りだったが1歩、また1歩と確実に近づくと、その部屋の全容が見えると共に、ようやくその姿が見えてきた。が、その努力は無駄だった。ローブで顔を隠しとる・・・!おまけに・・・部屋の中はDARの連中と思われる死体でいっぱい・・・。全員額を・・・撃ち抜かれとる・・・。砲撃系の物理破壊設定か・・・?もしそうやとしたらこの抜け方は尋常や無い威力で撃ち抜かれた様や。綺麗な穴があいとる・・・。

 

「これはどういうことだ・・・!まさか、裏切ったのか!」

 

 死体に気を取られていると、カーネルの叫び声が聞こえた。

 裏切る?なんの話・・・。しまった・・・!

 

「待てぇぇぇぇ!」

 

 私が叫ぶと同じに、カーネルの背中から剣の切先が突き出た。カーネルは力無く崩れ落ちそうになるが、刺さっている剣がそれを許さない。

 ようやく剣が引き抜かれカーネルが床に倒れると、ローブの――体格的には――男が魔方陣を展開し始めた。

 まずい!逃げられる。心の中ではそう叫んでいたが、体が思う様に動かない。どうにかシュベルトクロイツを持ち上げるころには、男の姿は消えていた・・・。

 

「畜生・・・!逃げおったか・・・」

 

 ここまでの努力の半分が無駄になったな・・・。くそ、ワクチンはどこや・・・?

 もうほとんど見えなくなっている視界でワクチンを探す。良く見るとカーネルの血溜りの伸びた先に、金属製の箱があった。

 

「・・・こ・・・これ・・・か・・・?」

 

 やっとの思いでその間の側に歩いていくと中を覗いて見た。・・・ビンゴや。液体の入ったアンプルが山ほど入っとる・・・!

 

〔こ・・・こちら・・・ライズバレットワン!ワクチン、か・・・確・・・保〕

 

 それだけを伝えると、ついに意識を繋ぎ止める糸がぷつりと切れてしまった・・・。落ちていく・・・。意識の奥深くのまどろみの中に・・・。

 

 

 

Killmage-Virus,Appearance of disease―――キルメイジ、発症―――

 

 

 

              JMT 12月25日 地上本部医務室 「はやて」

 

 「・・・・・!」

 

気が付くとそこは既にDARの本拠地ではなかった。眠っていたのか・・・。少し目が霞むが、徐々に目が慣れてくる。眩し過ぎるほど日が差してきていると思ったら、向かいの壁にある時計が午前8時を指していた。

 それよりも私はどうなったのか・・・。たしかDARの本拠地で意識が切れて・・・、それから先はまったく覚えとらん。ま,生きとるっちゅうことはなんとか解決できたんやろ。

 とりあえず起きるか・・・。

 

「ふっ・・・!ぐっ・・・!あ・・・あれ?」

 

 起きあがることが出来ない。なんでや!?あれ?

 

「起きましたか,はやてちゃん?」

 

 なんとか動く首だけをまわして声のするほうを向くと、そこにはシャマルがいた。そこでやっと理解した。ここは地上本部の医務室や。・・・ちゅうことは作戦はうまくいったんか?

 

「シャマル、キルメイジはどうなった?」

 

「はやてちゃんがワクチンを見つけたんですよ?覚えてないんですか?」

 

 覚え・・・・とらんなぁ。何せあんときは必死やったから・・・。ま,成功したんやから別にいいやろ。

 

「今,解決したから別にええやろ〜とか考えてたですぅ!まったくはやてちゃんはいつも無茶ばっかり・・・」

 

 ん・・・?反対側から聞きなれた声が・・・。振り向くとそこにはやっぱりリィンがいた。かなり怒っているご様子で。まぁ無茶したのは自分でもわかっとる。

 

「そうめくじら立てんな。あんなしんどいんはもうこりごりや」

 

 そう言ってなだめると、「まったく・・・」とだけ言ってリィンも黙ってしまった。

 ふぅ・・・。あんまりお小言を聞くと直るもんも直らなさそうや。

 そう言えば気になることが一つだけあった。ランドルフ博士のことやった。作戦開始と同じに姿を消し、そのまま姿をあらわさなかったあの男・・・。

 

「リィン、お前ランドルフ博士を見たか?」

 

 あまり期待はしていなかったが聞いてみた。まさか予想外の答えが返ってくるとは思ってなかったので、

 

「見ましたよ?て言うか倒れたはやてちゃんを連れてきたのは博士ですよ?」

 

 こう返ってきたときは心底驚いた。

 

なんやって・・・?あの男、それまでどこに・・・?ん・・・魔力結合の反応が・・・これは・・・?

 

 今この地上本部で勤務している魔道師のほとんどはキルメイジにやられて療養中のはずや。シフトを見る限り動ける連中もみんなではらっとるはず・・・。まさか、まさかな・・・。

 

「・・・ちょっと屋上言って風にあたってくる。すぐ戻るからな」

 

 そう言うや、有無を言わさず無理やりベッドから立ちあがってスリッパを履いて歩き始める。後ろで聞こえる二人の静止を無視して病室を出ていった。

 廊下では局員が忙しそうに働いていた。今までの騒動が無かったかのように日常の風景や。しかし、数が少ない。やはり感染者はまだお休み中ということか。

 

「さて・・・最後のお仕事や」

 

 屋上につながる階段を1歩ずつ上り始めた・・・。

 

 

 

              同日 地上本部 屋上 「ランドルフ」

 

 「我々」の目的・・・。戦闘用バイオ兵器『キルメイジ』の戦闘データの収集だった。感染力、潜伏期換、効力、ワクチンの有用性・・・。ありとあらゆるデータを取るために彼ら、時空管理局とDARを利用した・・・。

 結果は驚くべきものだった。ワクチン未使用時の致死率は98.2%と高く、感染力も非常に強い。人から人への二次感染が今後の課題としては残ったが、それでも十分に良いデータをとることが出来た。後は本部に帰るだけだ・・・。

 転送ポートを開こう。それで今回のミッションは終わりを告げる。

 

「転送ポート開け。管理ナンバー17485。ID、ランドルフ・アシュバートン」

 

〔管理ナンバー、ID共に確認。1分後に直通転送ポートを開きます。暫くお待ちください・・・〕

 

 いつもこの1分が長く感じてしまう・・・。なにもせずにいると自分がしてしまったことの罪の重さが心にのしかかってくる。だからどんなミッションよりもこの時間のほうが嫌いだった。

 そんなとき、誰も来るはずの無いであろうこの屋上に来客があった。

 

「まさか、アンタが黒幕やとはなぁ?」

 

 八神はやて准将・・・か。この人の体力は正直驚かされるものがあった。副官の人間もかなりすごかったが、キルメイジに侵されてあんなにもった人間はいない。驚くべき生命力と魔力量だった。今はそれが厄介になったわけだが・・・。まさかここまで上がってくるとは。

 

「なぜここに?」

 

「悪い事した子を捕まえにきたんや」

 

 冗談めいた様に言ってはいるが、目は真剣そのものだった。

 ちょうどそのとき転送ポートが開き、後ろに逃げ道が出来た。

 ・・・が、それと同時に彼女もデバイスを向けてきた。

 

「今度は逃がさへんぞ・・・!」

 

 諦めるしかない・・・ようだな。そろそろこの仕事にも疲れてきた・・・。すべてを打ち明けても良いだろう。

 転送ポートを閉め、彼女をまっすぐ見る。良い瞳をしている。綺麗な目だ。彼女になら打ち明けても良いだろう。

 

「逃げはしない。すべてを話そう」

 

「何ぃ?」

 

 彼女は戸惑っていたが、少しだけデバイスの切先が下がった。どうやら聞いてくれるようだ。

 どこから話すべきか・・。

 

「『組織』の概要からでも話そうか。俺達は各次元に根を張る膨大な組織に所属している。名前は特に決まっていない。故に『組織』、とだけ呼んでいた」

 

 そこから話をしないと恐らくわからないだろう。自分すら組織を20%も把握しきれていないのかもしれないのに、概要というのもおかしいが・・・。しかしここから聞いてもらうべきだと思った。

 

「俺達は様々な次元の、様々なロストロギアを見つけて軍事転用するために活動している。『キルメイジ』もその計画のうちの一つだった」

 

 彼女は黙って聞いてくれていた・・・が、切先は相変わらず下がりはしなかった。ふぅ・・・まぁいいだろう。

 

「今回採取したデータを渡そう。・・・これ―――」

 

 データを端末に渡そうとしたとき、体・・・・心臓に焼けるような痛みが走った。

 痛みのしたところを見ると、血が吹き出ていた。くそ・・・!『組織』の連中か・・・!遠距離からの狙撃だろう。ここまで綺麗に決められては流石に助からんだろう。はは・・・。これまでのツキか・・・。

 

「ゴフッ!」

 

口から血が吹き出す。気管に入って息が出来ない・・・。もうじき死ぬだろう・・・ま、これもいいかな・・・やっと・・・罪から解き放たれるときが・・・きた・・・。

 

「博士!しっかりしてください!」

 

 彼女が走りよってくるが、無駄なことだった。後やるべきことは一つ・・・。彼女にキルメイジを託す。

 

「聞け・・・准将。キルメイジの・・・容器のキーは・・・俺が持って・・・げほ!」

 

「もう喋ったらあかん!」

 

「もう助からん。・・・こ・・・・これだ。これとあの容器を・・・・持っていくんだ。気をつけろよ・・・」

 

 永遠の帳が下りてくる・・・。今まで殺してきた連中の顔がどんどん出てくる。迎えに・・・来たのか・・・?良いだろう・・・行こう・・・。

 そこで、意識が途絶えた・・・・永遠に。

 

「博士!?博士!しっかりせぇ!くそっ!シャマル!屋上まですぐ――――」

 

 

 

              JMT 12月26日 鳴海市 「はやて」

 

 結局、あの件はDARのクーデターということで片付けられてしまった。あの後キルメイジは確保できたものの、博士は集中治療室に運ばれたころにはもう亡くなっていた。・・・クリスマスに人の死を看取ったのは2回目か・・・。なんと嫌な日や。

 その後私達八神家一同は休みを取り―――忙しいのに休みをとって嫌な目で見られたが―――恒例行事となった先代リィンフォースの墓参りに来ていた。

 

「また大きな事件があったよ・・・。世界は、平和になんかならんのやろか?」

 

 自然と口にしてしまっていた。しかし、そう思わざるを得ないことが多い。あまりにも多すぎる。

 自然と弱気になっていた私の頬を、一筋の風が撫でていった。

 

「・・・!」

 

 先代リィンが励ましてくれとるような気がして、すこしだけ元気が出た。

 

「そんなことありませんよ、主はやて」

 

「そうだよ。世界を平和にするためにあたし等がいるんじゃん」

 

「そうよはやてちゃん。きっと大丈夫よ」

 

「そうですぅ!じゃないと今までしてきた事が無駄になっちゃいます!」

 

ザフィーラもなにも言わなかったがしっかりと頷いてくれた。そうや、私にはみんながおる。暖かい家族がおって、優しい仲間がおって、心強い部下達がおって・・・。

 世界を平和に・・・か。客観的に考えればかなり大きな野望かもしれん。でも、みんながおれば出来そうな気がする。

 ありがとな、リィンフォース。お前に出会わなければこんな仕事にも就けんかったやろ。

 

「そうやな、弱気になったらあかんよな。・・・そろそろいこか。寒くなってきた」

 

 雪の降る中、私は歩き始める。私の大切な守護騎士達と、私の思う平和を掴むために・・・。

 しかし一歩踏み出してなんとなくすぐ立ち止まる。ふりかえると、眼下に広がる町に綺麗な雪の化粧が施されていた。

 

 「メリー・・・クリスマスや・・・」

 

 誰に向けたものなのか、その祝いの言葉を口から紡ぎ、今度こそ振り返らずに帰途についたのだった・・・。

 

 

              White X'mas Serenade〜終〜